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名古屋高等裁判所 昭和37年(ラ)79号 決定 1962年7月14日

抗告人 大橋光雄

相手方 学校法人 名城大学

右代表者理事 兼松豊次郎

右訴訟代理人弁護士 山口源一

主文

原審裁判長の為した訴状却下命令はこれを取消す。

本件を名古屋地方裁判所に差戻す。

理由

抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

原審裁判所の裁判長は昭和三七年五月一九日抗告人に対し、「その訴状を左の点につき本命令送達の日より一〇日以内に補正することを命ずる。

原告は被告の代表者を同法人理事兼松豊次郎と表示しているが、同人は被告の代表権を有しないものと認められる(資格証明書として訴状に添附せられた学校法人名城大学の登記簿謄本によると、同人は理事であることは認められるが同法人においては代表権は理事長のみが有することに制限しているので同人には代表権なく、昭和三五年一一月一一日当時の理事長田中寿一が死亡した後、何人も理事長に就任しておらず、現在は被告を代表する権限を有する者は存しない状態にあることが認められる。なお、名古屋地方裁判所の判決により職務代行者に選任せられた旨の登記のある浦部全徳に対しては、昭和三六年二月一四日、同裁判所から職務終了の通知が送達されたことは当裁判所に明らかである。)従つて、右の者によつては被告に対し有効な訴状送達をなし得ないので、この点について補正することを命ずる。」との補正命令を発したことは本件記録に編綴の訴状補正命令により明白である。

併し、私立学校法第三七条第一項は「理事は、すべて学校法人の業務について学校法人を代表する。但し、寄附行為をもつてその代表権を制限することができる。」と規定しているから、相手方学校法人において代表権を理事長のみに有することに制限しているのは右条項の但書の例外規定にもとづくものである。原審補正命令の通り昭和三五年一一月一一日当時の理事長田中寿一が死亡したと認定するときは、同条第三項に依り「寄附行為の定めるところにより、他の理事が、理事長の職務を代理し、又は理事長の職務を行う」ことになるから、理事長の職務を代理し又は職務を行うべき者の有無を審査し、無いことの判明したときには、前記条項第一項但書を適用する余地が無くなるのである。同但書の適用の余地の無い場合には、同条項第一項本文の本則に帰えり、理事がすべて学校法人の業務について学校法人を代表することは公共性を有する学校法人として当然のことに属する。これに反し、原審の裁判長は兼松豊次郎が相手方法人の理事であることを認めながら、特段の事情を認めないで相手方法人の代表権を有しないと認定し欠缺を補正すべきことを命じ、更にその欠缺を補正しないことの理由で訴状却下の命令を為したのは違法であるから、同命令を取消し本件を名古屋地方裁判所に差戻すべきものである。

よつて主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 県宏 裁判官 越川純吉 奥村義雄)

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